日本の線香花火を守り、進化させる職人
どこにも行けない夏に、幻想的な火花の世界へ
夏、線香花火をじっと見つめた記憶を持つ人は多いのではないだろうか。
江戸時代から続くその光を守り、極上の線香花火を作る職人筒井良太48歳。
福岡県みやま市に工場をもつ「筒井時正玩具花火製造所」の3代目だ。
日本で生まれた線香花火だが、意外にも現在販売されている製品の99%は輸入品。国内で製造している会社はたった4軒である。和紙をよった「長手牡丹」が多く作られる中で、筒井は線香花火の始まりの形、ワラに練り火薬をつけた「スボ手牡丹」も作ることができる、国内唯一の職人である。
今夏、筒井の元には、数々のオーダーメイドの線香花火の注文が集まっていた。その中には、今年打ち切りが発表された広島県宮島の花火大会を偲ぶ地元の会社からのオーダーや、リモートでも線香花火で繋がりたいと願う人々からのオーダーがあった。伝えられたイメージを元に、細かく染料を混ぜあわせ、線香花火の紙の色を染めていく筒井。花火業界が苦しい時代、「花火を忘れないで欲しい」という思いも込めて、筒井は特別な線香花火を作り続けているという。
0.08gの火薬と紙のみでできているシンプルな線香花火は"究極の花火の形"。
筒井の線香花火は長いもので2分半も燃え続け、持ち手まで火花が迫ることも多い。その究極の火花の美しさを作り出すまで20年、筒井は寝るまも惜しんで研究を続けてきた。取材では、年に4回しか行わない火薬配合の様子や、長時間火花が咲き続けるための紙のより方まで教えてもらった。
「花火のことなら、とにかく試してみたい」と、筒井は今なお探究心を絶やさない。日々の火薬配合はもちろん、最近は「スボ手牡丹」の原料であるワラも最高のものを求めて、自身で田植えまで始めた。更に、手持ち花火も手がける筒井は、新たな原料を使った花火に挑戦しようとしていた。
コロナによって花火大会の中止が相次ぐ今年の夏。苦しい花火業界のため、夏を楽しみにする子供たちのため、線香花火を極め続ける男のひと夏を追った。